こんにちばんわモレキレカンです。
先日こちらの記事(https://morekirekan.hatenablog.com/entry/2019/05/28/132706)でご紹介した「減量しながら筋肉量および基礎代謝量を高めることは可能か?」という論文内で言及されていた2013年New England Journal of Medicineに掲載された「Myths,Presumptions,and Facts about Obesity」をご紹介していきます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3606061/
この論文には7つのMyths(作り話、神話、根拠の薄い社会通念)が否定されています。それを1つずつ肥満にまつわる7つの嘘として紹介していきます。
肥満にまつわる7つの嘘
1つめの嘘:カロリーの一定の小規模な変化が長期的な体重の変化をもたらす
内容の要旨:これは3500kcalの消費で1ポンド(0.45㎏)の脂肪減少が起こるという半世紀前の実験(3500kcalルール)に基づき信じられていたことです。最近の研究ではエネルギー摂取量やエネルギー消費量に応じて体組成に変化を与えることが示されています。例えば、3500kcalルールでは毎日1マイル(1.6㎞)を歩くことで100kcalを消費し、5年間で50ポンド(22.7㎏)の減量が行われると予測しています。しかし実際には10ポンド(4.5㎏)の減量にしかなりません。代償的に摂取カロリーを増やすということがないと仮定すると、体のエネルギー要求量が変化するからです。
ちょっと和訳がつたないので読みにくいと思いますが、要するに同じ運動をしていても同じように脂肪重量が減っていくわけじゃないよということです。長期的に直線的に同じペースで体重が変化するわけでは無いということですね。
前回の記事でも書いた通り、脂肪が減るだけでも基礎代謝量は減少します。同じ刺激に対してはホメオスタシスが働き、一定の状態を維持するように代謝を落としたりという反応が起こっている可能性もあると思います。ホメオスタシスとは体を一定に保とうとする自然と備わっている人体の仕組み全般のことです。体は変化していくものなので、最初の計算がいつの体にも当てはまるわけでは無く、体の変化に合わせて計画を変更していかないといけないということですね。
ホメオスタシスについては以下の記事でも触れていますので読んでみて頂ければと思います。↓
2つめの嘘:あまり体重が減らなくてフラストレーションを抱えるので減量の際には現実的な目標を設定することが大事です。
内容の要旨:合理的な仮説ですが、実際のデータが示しているのは野心的な目標と体重減少を達成できるかやプログラムを修了できるかの間には関連がないということです。それどころかいくつかの研究は野心的な目標はより良い体重減少に関連していることを示しています。さらには2つの研究では非現実的な目標を現実的な目標に変更させるような介入を行ったところ、体重減少をよりよくはしませんでした。
これも実感と一致することが多いですよね。より高い目標を設定することとそれに向けたスモールステップを設定する方がより良い結果をもたらすのではないかと思います。
3つめの嘘:大きく急速に体重を減らした場合、ゆっくりとした減量に比べて、長期に見ると体重減少量の結果が良くない
内容の要旨:体重減少に関する試験では、より急速で大きな初期の体重減少が長期フォローアップの後の体重減少量と関係しています。ランダム化比較試験をメタ解析した際には800~1200kcal/日の低カロリーダイエットとそれよりもカロリーの低いダイエットで比較した際には1年以内の短期観察点では9.7%の16.1%の体重減少と差があったにも関わらず、1年後の観察では差が認められなかった。
急速に体重を減らすとリバウンドするよなんて言われますけど、実はそうじゃないんだよっていうことです。急速に減らすことが問題ではないというのが分かるのは大きいですよね。リバウンドしてしまった経験をお持ちなのであれば、減量の速度が問題ではなく、それ以外の問題があったということです。筋量が落ちてしまった、脂肪減量による基礎代謝の落ちを計算に入れていなかった、食欲が爆発したなどなど原因が分かれば次は避けることが出来ます。それを考える上で明確にリバウンドの原因にならないよと言ってもらえるのは役立つ情報ですね。
4つめの嘘:減量治療を欲している患者を救うためには変化やダイエットに対する準備状態を評価することが重要である
内容の要旨:減量プログラムや肥満手術を受けることに同意している人に対してどの程度の心の準備が出来ているかを評価することは、どの程度減量できるかや治療を継続できるかの評価に繋がりません。単純に治療に参加する意欲があるということは減量に必要な行動をとる準備が出来ているということだからです。
これは治療する側に対しての話なので、多くの方にとってはあまり関係のないものでしょう。当然と言えば当然の内容ですね。医療は時に過剰に医療側の尺度に患者さんを当てはめようとしてしまうことがあり、自戒をこめて記載しました。
5つめの嘘:現在の形式での体育の授業は小児の肥満を予防したり軽減したりするのに重要な役割を果たしている
内容の要旨:通常行われている形式の体育の授業は、肥満を予防または軽減していると示す研究はありません。二つのメタ解析では、身体活動を促進する特別な学校でのプログラムでもBMIや肥満率に影響を与えないという結果であった。
この論文の著者はイギリスのバーミンガムの方なので、体育の授業がどのように日本と異なっているかは私にはわかりません。ただ、日本の体育でも同様の結果であろうと思います。週に2回程度しかなく、小学校なら45分間授業で短時間ですし、その時間内もずっと動いているわけでもないとなると・・・・。脂肪を減量することの難しさを知っている我々からすると、それくらいのことで脂肪が燃えると思うな!と叫びたくなるような話ですよね。結局今の体育の授業では運動が苦手だったり、あまり好きではない子がより体を動かしたいと思うような刺激にはなり得ていないということですね。体育の授業で体を動かす楽しさを覚えて、休み時間や放課後も体を動かす遊びをするようになるというのが一番理想の形なんでしょうね。
6つめの嘘:母乳育児は抗肥満作用がある
内容の要旨:世界保健機関(WHO)の報告によると、乳児期に母乳で育てられた場合、のちの人生において肥満になりにくく、またそれは出版バイアスや交絡因子によるものではなさそうであるとしています。しかしながら、明らかな出版バイアスの証拠も見つかっています。さらには交絡因子を排除しやすい研究形式や13000人を6年以上追跡した研究でも母乳育児が肥満に与える影響は見られませんでした。現在までの研究結果では母乳育児が子供に対して明らかな抗肥満効果はないということですが、その他の潜在的な利点が母子にあるため推奨はされます。
人工乳の方が、栄養成分の違いや定期的に決まった量を摂取出来たり、吸啜する際に楽であったり、母体の健康状態に左右されないことなどから児の体重増加が安定しているというのはあると思います。ただそれも後の人生での太りやすさなどには影響をしないということであろうと思います。初期の肥満度と後の肥満度との関連を調べたデータもあると思いますので、見つかればまたご紹介します。母乳の利点、人工乳の利点はどちらもありますが、母乳育児をしたくてもできない方もいらっしゃるので、こういった情報は特に気を付けて扱われるべきだと思います。その中でWHOという大きな機関が誤っていたというのは問題であると思います。
ちなみに出版バイアスというのは期待される結果が出た研究の方が雑誌などに掲載されやすく、世に出回りやすいということです。また交絡因子というのは、例えば酒をよく飲む人に肺がんが多いというデータが出たとすると、酒⇒肺がんという因果関係ではなく、酒を飲む人⇒煙草を吸う率が高い⇒肺がんが多い といったように裏に隠れてしまった影響を与える因子のことになります。
7つめの嘘:性行為1回につき100から300kcalが消費される
内容の要旨:エネルギー消費量は運動強度(METs)、体重、時間の積により算出されます。70㎏男性、3METs、6分間と仮定すると消費カロリーは21kcalです。テレビを見ているだけでも7kcalを消費していたでしょうから、差し引きでは14kcalになります。
これはそのままですね。カロリー消費に過度な期待は厳禁ですね。
以上、「Myths,Presumptions,and Facts about Obesity」に載っていた7つのMythsについて私自身の考えも交えて解説させて頂きました。この論文にはまだObesity(肥満)にまつわるPresumptions(仮説)やFacts(事実)に関しても書かれていますので、いずれご紹介できればと思います。
みなさんの楽しい筋トレダイエットライフの一助になりましたでしょうか。
それではまたお会いしましょう!